その、綺麗なマラカイトグリーンに見つめられると
何もかもを話してしまいたくなる。




マラカイトグリーン  :  1






小さい頃、お互いの誕生日になると必ず小さいながらもプレゼントを交換しあった。
それは、父親の知人達から送られてくる義理や見栄、そんなものが混じった沢山のプレゼント
なんかより、遥かに素敵でキラキラ光っていたのを覚えている。

その習慣は13歳で別れるまでは必ず、離れていた3年はしょうがないにしても、
再会してからはずっと続けられてきたものだ・・・しかし・・・

『ちょっと出かけてくる!泊まりになるかもしれないから!』
『ちょっ!キラ!一体どこに行くんだ??』
『すぐ戻ってくるから!じゃあ、いってきまーーす!』
『キラ!!?待てって・・・キラーーー!』

そんなやり取りをしたのが2日前・・・。
10月29日前日にして、止める間もなくキラはどこかへ行ってしまったのだった。


キラの突然、思い立つ日が吉日的行動は幼いころから変わりがない。
小さい頃もよく、突然何かを見つけて走り出してアスランを惑わせたことが多々あった。
しかし、4歳頃から13歳になるまでずっと一緒に行動していれば、そんな破天荒な行動にも
慣れが生じ、キラが行動を起こす前に止めてみたり出来ていたのだが・・・。

なにせ3年のブランクにさすがのアスランの勘も鈍ったというところだ。

「キラ・・・お前一体どこいったんだ・・・」



10月28日  

戦時中に連合軍から宇宙港を守る為に爆破したカグヤの跡地に建てられた新宇宙港に
若草色の髪をした少年が誰かを待っていた。そして、そんな彼を目指して少し離れたところから手をふって
必死で走ってくる待ち人の姿を見てクスリと苦笑した。

「ニコル!ごめんね遅れて!」
「いいえ。大丈夫ですよ」

その待ち人とはアスランが現在探してやまない人。キラ・ヤマトだった。

「ごめんね!わざわざプラントから迎えにきて貰ったのに!」
「いえ、本当にいいんですよ。気にしないで下さい」
「じゃあ、行こっか!」
「ええ。」

プラント行きのシャトルに一人では乗ったことが無いキラに
ニコルが先に取っておいたチケットを渡してシャトルに乗り込む。
「アスランに黙って来てよかったんですか?せめて行き先だけでも言ったほうが・・・」
「駄目だよ!だって言ったら絶対付いて行くって言うだろうし・・・変なことで過保護だからさアスランって」
「はあ・・・」
キラの意気込んだ意見を聞きなながら、それって過保護なんじゃなくて単なる
アスランの独占欲なんじゃないだろうかと、ふと思い、分かって貰えていないアスランに
少しの同情を覚えた。

「あ、どれくらいでプラントに着くのかな?」
「そうですね、直行便なので4時間くらいで着きますよ」
「そっか。ねえ、ニコルはアスランの欲しいものってなんだか分かる?」
「アスランの好きなもの・・・ですか?」
「そう」

真剣な表情で聞くキラに苦笑して応える。
「そんなの、キラさんの方がよくご存じなんじゃないですか?」
「そんなことないよ。ねえ、分かる?」
「そうですねぇ・・・・マイクロユニットとか?」
「うーん。そうだよねぇ・・・アスランの好きなものってマイクロユニットとかしかないよねぇ・・・」
「あとは・・・ああ、果物系が好きですよね」
「え・・そうなんだ」
思い出してみれば、そういえば果物類を食べている時はちょっと
機嫌がよかったような気がするが、面と向かって好きだとは言われたことは無かった。


ズキッ


(?何だろう、一瞬・・)
「プラントの空港にイザーク達が迎えに来てるはずなのでイザークにも聞いてみたらどうです?」
キラは突然肩をポンと叩かれてビクッとしたが、その直後その言葉を理解して、
驚いたように大きな瞳を更に大きく開いた。
「あ・・え!イザーク達ってディアッカも!?迎えにって・・・」
「キラさんをプラントに連れてくることを言ったら、運転手役を買って出てくれましたよ」
「そんな・・・悪いよ・・・」
シュンとしてしまったキラにニコルがにっこりと安心させるように笑う。
「そんなことないですよ。久しぶりに会えるって喜んでるみたいでしたしね?」
「僕も久しぶりに皆に会いたいよ。ニコルに会えて嬉しかったし!」
「有難う御座います。僕も嬉しいです。」
えへへと笑って顔を見合わせた。はたから見るとまるで姉弟のように見えてしまう。

「ほらキラさん少し時間が開きますから、自由にしてて下さいね」
「うん。有難う」

さっき感じた痛みは何だったのだろうと、心の中でひっかかりを感じたが
優しいニコルの笑顔にキラはすぐにその痛みを忘れてしまった。




それから数時間後、シャトルは無事プラントは到着した。
キラはニコルに導かれるまま後を着いていくと、出口付近に見慣れた二人組がいた。
「イザーク!ディアッカ!」
見つけたキラが少し駆け足になって、手を振りながら近寄ってくるのを見て
二人組、イザークとディアッカが笑う。
「よお!キラ。元気してたか?」
そう言ってディアッカがキラのチョコレート色の柔らかな髪をグチャグチャに掻き回す。
「元気だったよ!って、髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃう!」
上から伸される手を止めようと必死で抵抗していると、見兼ねたイザークがディアッカを追い払って
グチャグチャにされた髪の毛を、サラサラと撫で梳いてくれる。
「・・・変わりはないようだな」
「うん。何か、アスランもニコルもそうだけど、二人ともすごく背が伸びたね」
「まぁ、成長期だしな」
「うーん・・・」
それに比べてキラの背は戦争時代と全く変わっていない。
アスランも最近は背が伸びて自分をとうに追い越してしまった。そして、今日戦友に久々に出会って
ますます自分の背が心配になった。
「あまり気にしすぎるな。人には個人差があるのだからな」
イザークが悩んだキラの頭をポンと手を乗せた。キラはその言葉にエヘへと笑う。
「そうだよね!」
「そうですよ。キラさんだってきっとすぐに身長が伸びますよ」
「うん」
頷いたキラにニコリと笑って、ニコルは少し残念そうに口を開いた。
「すみません。折角久しぶりにお会い出来たんですが、ピアノのコンサートが近くて
練習しなくちゃならないので僕はこの辺でおいとまさせて頂きますね。」
キラが慌てたようにニコルに向き直る。
「え!ニコル・・・忙しいところわざわざ迎えにきてもらっちゃってごめんね!」
「いえ、いいんですよ。いい気晴らしになりました」
「ニコル・・・・」
「久しぶりにキラさんに会えて嬉しかったです。それではまた・・・」
歩き出そうとしたニコルにキラがハッと気が付いたように
「うん・・あ!ニコル!もしアスランから連絡があったら、僕とは会ってないことにしておいてね!」
「ええ、もちろんですよ・・では・・」
そう言ってニコルはゆっくりと空港出口へと歩いていった。



そして、空港を出て向かえの車に乗った時、聞き慣れた電子音がした。


着信
アスラン・ザラ


「やっぱり来ましたね・・・思ったより早かったかも」
そう言いながらピッと音を鳴らして通話ボタンを押す。
『もしもし。ニコルか?アスラン・ザラだが・・・』
「ああ、アスランお久し振りです。お元気ですか?」
『ああ。変わりはないよ。ところでニコル』
「はい?」
『キラから何か連絡が行ってないか?』
「え?いいえ?来てませんけど。何かあったんですか?」
予想していた質問に少し苦笑して悪いなと思いつつ何も知らない振りをする。
『・・いや・・ちょっと。とにかく何かキラから連絡があったらこっちに回してくれ。じゃあ・・・』
「はい。分かりました。それでは・・・」
プツッと通話が切れた音がしてから携帯電話をパタリと閉じて
キラを探して西へ東へと奔走しているアスランの姿を想像して
やはり同情の念を覚えつつも電話の向こう側に居るであろう元同僚に呟いた。


「すみませんアスラン。僕、どちらかっていうとキラさんの味方なんです。」





「行くんだろう?ラクス嬢のところに」
一方、イザーク達も空港から出るところで、横付けにしてある車を指で
クイッと示した。
「うん。お願いします。」
イザークにコクリと頭を下にさげる。
「ま、運転すんのは俺なんだけどね」
『あ、そっか』とディアッカに頭を下げようとした所を服の襟を
イザークにクイッと引っ張られて止められた。
「煩いぞ。アシは黙って運転していろ」
「ひっでぇなあ・・・なあ?キラ」
そんな二人のやり取りにキラはクスクスと笑い出す。
「あはははっ、相変わらずなんだね」
「まっ!そう簡単には変わらないって」


ディアッカが運転席に、イザークとキラが後部座席に座り、ドアロックを掛けたところで
車は発進した。
「あ、ねえ。イザーク達ってさアスランと3年間ずっと一緒だったんだよね?」
「・・ずっと・・・というか・・まあ一応アカデミーが同じだからな」
イザークが少し顔をしかめて答える。
そんな様子を脇目で見つつディアッカは、嫌な(?)質問でも顔をしかめつつ一応答えてやる
イザークに、やっぱりキラには甘いよな・・・と心中で思っているとキラがまた口を開いた。


「じゃあ、アスランの好きなものとか、欲しいものって知らない?」
「はあ?そんなの知るはずがないだろう」
「そうそう。第一、ニコルはともかく俺達はキラが間には入るまではほとんど
必要最低限しか話なんてしなかったし」
ため息を吐いたイザークに同調するように畳み掛けてむしろ弱点を探っていたぞ、
とも言えずディアッカは言葉を切った。
「そっかぁ・・」
「何かあったのか?」
イザークが問いかけるとキラは困ったような笑みを浮かべ言う。
「もうすぐアスランの誕生日でさ・・・何あげようか迷ってんの」
「なんだ、そんな事かよー!」
ハンドルを操作しつつディアッカが、もっと大事かと思ったぜと笑い出した。
「え!ディアッカ何か知ってるの?」
丁度、信号が赤になり停止した運転席からディアッカが顔を後ろに覗かせてニッと笑う。
「そんなの・・・キラをやればいい・・・って痛テっ!」
「お前は黙って運転していろと言っただろうが!」
言葉の途中で顔を殴られたディアッカが殴られた頬を押さえながら大げさに痛がる。
そんなディアッカを見ないようにしながらイザークがキラの方を向いた。
「あいつなら、キラがやるものなら何でも喜ぶんじゃないか?」
そう言ったイザークの言葉に少し頬が紅くなって俯いた。
「うん・・・・・・アスランは優しいから、何をあげても喜んでくれると思うけど、
でも、やっぱり本人が欲しいものをあげた方が良いんじゃないかと思って」


意気込みながら語るキラに押されつつ頷く。
「・・・・そ、そりゃあな・・・」
「・・・そ、うだな・・」
ディアッカは運転しながらもチラリとイザークを目が合う
もしかして、自分達はキラにのろけられていないか???と・・・・・。


隣で、『うん!やっぱりそうだよね!』と拳を強く握っているキラにディアッカは
ふと思い出したように、そういえば・・・と呟く。
「何か、この前会った時に何か作る為に、結晶電池が必要だけど中々手に入らない
って言ってなかったか?」
おおかた、キラに何か作ってやる為に必要なだけだと思うけどな・・・と
口には出さずに続けた。
「そうだったか?」
イザークはあまり覚えていないらしくピンと来なかったが、ディアッカと同じ考えだった。
「へー・・・そうなんだ・・」


ズキン


(あ、また、何か)
「キラ?胸なんか押さえてどうした?痛いのか?」
そう言われてハッと胸を押さえた手をブンブンと振った。
「え?ううん!?違うよ?へえ、結晶電池かぁ・・・確かに個人レベルじゃ中々手には入りにくいかもね」
そしてまた、キラが無意識のうちに胸を押さえていたことの気付いていたのは、
隣に座っていたイザークだけだった。

暫く、お互いの近況や、他愛のない話をしているとクライン邸が見えて来た。
門のところに停車してキラを降ろしてやる。
「じゃあ、キラ。俺達はこの辺で」
窓をあけてディアッカが片手をあげた。
「本当に有難う。せっかくの休暇だったのに・・・」
「そうしたいと思ったから行動した。お前の信念だろう?」
キラの言葉を遮ったイザークの言葉にキラが微笑む。
「うん」
「だから俺もしたいようにしただけだ」
だから、気を病まなくていいのだと言外に告げると
キラにちゃんと伝わったらしくキラはまた嬉しそうに笑った。
「あと、あまり考え込むな。お前は考え過ぎるとバカになる」
「な!ひどいよイザーク!」
イザークは窓から手をだして頭をクシャっと撫でる。
「そろそろ時間だ」
「あ、うん!」
そして、じゃあ行くねと後ろを向いたキラが思い出したかのように振り返った。
「あ!二人とも!もしアスランから・・・」
「分かってるから、ほら、約束の時間になっちまう」
「うん。じゃあ、またね!」



キラがクライン邸の大門の所へ歩いていったその小さな後ろ姿をのを見送り、
ディアッカが苦笑した。

「でもよ、何だかんだ言ったってアスランもキラもお互い
べた惚れだよなあ・・・」
「・・・付き合ってられん。帰るぞ」
「へいへい」

ここまでは仕組まれていること。
電話はこない。
恐らく、すでにアスランへはラクス・クラインから脅迫ともとれるメールが届いているはずなのだから・・・。




next >>>2


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長くなってしまったので、二つに分けました。
後半もお楽しみください!

2004/10/30
麻生 

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